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金野誠志 教授 著「価値多元社会における文化教育論」のお知らせ

価値多元社会における文化教育論 金野誠志著

当会の会員であり、鳴門教育大学・大学院学校教育研究科 教授でおられる金野誠志様より、この度「価値多元社会における文化教育論」と題した書籍を発売されましたのでお知らせいたします。

金野先生は何度も台湾に足を運ばれ、世界遺産という「人類共通の価値」を例に、それが文化教育等の場でどのように使われ、学びに繋がるのかを研究なされていらっしゃります。

日本もそうですが、世界遺産を持つ国の世界遺産に関する教育や広報は、その地域や国家財産としての価値に傾注してしまいがちです。しかし本来、世界遺産は国家としての価値ではなく世界(人類)共通の価値を示すことに本質が置かれるはず。それでは、こうした世界遺産を持つ国ではなく、最近まで世界遺産を持たなかったシンガポール、そして世界遺産が登録されていない台湾の教育現場では、世界遺産はどのように教育されているのか。

書籍については以下をご参照いただき、ご関心ございましたらぜひお手に取ってみてください!

価値多元社会における文化教育論 – 株式会社 明石書店

~金野先生からの紹介~

 私の故郷は、広島県尾道市です。800年の歴史があり、特に中世、近世を通じて繁栄した日本を代表する港町でした。対明貿易船、北前船、瀬戸内海の航行船の寄港地として多くの豪商を生み、浄土寺、西国寺、千光寺など多くの寺社仏閣の寄進造営が行われた寺町でもありました。2002年当時の市長は、尾道の歴史や景観を活かしたまちづくりを推進しようと、世界遺産登録をめざす意向を明らかにしました。しかし、現実は厳しく、2007年には新市長の下で断念され、2015年に「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」として日本遺産に認定された経緯があります。

 2013年まで小学校に勤めていた私は、尾道市が世界遺産登録をめざしていた期間、尾道の歴史や文化、景観などの素晴らしさを授業の中でも積極的に取り上げていました。しかし、世界遺産登録が断念されたということを知った子ども達の中には、「世界遺産になることができなかった尾道」ということで、「世界遺産よりも格下」という印象をもった子ども達もいたかもしれないと後に考えるようになりました。このようだと、世界遺産が最上位で、その次に日本遺産、そして地域の文化遺産といったような価値のヒエラルキーが形成されかねませんし、自分達を幼い頃から育んでくれた身近な地域遺産の保存や継承にもよい影響とはならないでしょう。

 そもそも、世界遺産、日本遺産、地域遺産などの価値は、人類として、国民として、地域住民としての重要な価値基準が異なるため上下関係にありません。大切なことは、自分がその時々で、遺産の価値をどう理解し重視するかということではないかと思うのです。このようなことが、「台湾の潜在的な世界遺産」、とりわけ日本統治期につくられた物件について、私が学校教育と関連付けて考えてみたくなった契機です。これは、台湾人のアイデンティティ形成とも大いに関わっていると思われますし、今後、我
が国や日本人がどのように台湾と関わっていけばよいのか考える契機ともなるでしょう。

 台湾での「潜在的な世界遺産」に関する学習は、物件がある地域ごとに独自に進められています。私の知る限りでは、新北市の全ての小・中学校で「淡水紅毛城及び周辺の歴史建築群」、嘉義市の嘉義市立林森小学校と国立嘉義大学附属小学校で「阿里山森林鉄道」、台南市の幾つかの学校で「烏山頭ダム及び嘉南大水路」を扱った授業が進められているようです。

 このような実態を調査し、台湾と日本の学校それぞれに資する授業の方法及び内容を検討しているところです。この度、その研究の一端をまとめた拙著『価値多元社会における文化教育論国家-アイデンティティ、シティズンシップ-』を、明石書店から刊行していただきました。ご興味があるようでしたらお手にとってご笑覧いただければ幸いです。

【報告】 平野久美子著「台湾クラフトの旅」新刊発表記念報告会を開催しました

平野久美子 出版講演イベント

小学館から1月29日に発売された平野久美子会長の新刊記念報告会を、当会主催で都内のレンタルスペースで開催しました!

初めに八田代表から平野会長の主な著作や当会の活動などについて述べたあと、平野会長本人から台湾の歴史や文化から生まれたクラフト(工芸品)をテーマにした本の内容や取材エピソードなどを紹介し
てもらいました。

また、会場では実際に工芸品を手に取ってもらいながら、説明や取材の苦労話しなどいただきました。

平野会長「台湾には『世界無形文化遺産級』の伝統行事や工芸や舞踊、歌唱などの伝統芸能がいろいろあるので、当社団としても現場に出向いたり楽習会で取り上げ、広く知らしめる活動をすることも意味があると思う」

書籍については以下をご参照いただき、ご関心ございましたらぜひ手に取ってください!

台湾クラフトへの旅 | 書籍 | 小学館

【報告】7/8-9実施 ミニスタディツアー 飛騨(白川村、御母衣ダム、高山市)に行ってきました!

2024年9月のスタディーツアーで訪れる「烏山頭ダム」と同様のロックフィルダムである御母衣ダムの見学と、白川郷の教育委員会との会合で世界遺産登録経緯、維持保全と観光への活用等の苦労話、そして高山市での学芸員からの町並み保存の歴史など貴重な意見を伺いました。

《主な行程》

7月8日(月)高山駅集合(昼食)→荘川桜公園→御母衣ダム・地下発電所→御母衣旅館(宿泊)

7月9日(日)御母衣旅館出発→白川村訪問・交流会→白川郷散策(昼食)→高山祭屋台会館→古い町並み散策→解散

《荘川桜公園》

 ダム湖に眠ってしまうはずであった樹齢400年以上と言われる老い桜2本を、初代電源開発総裁であった高碕達之介氏は「ダム湖の底に沈めたくない」という思いから、桜博士であった笹部新太郎氏や庭師の丹羽政光氏に要請。心を動かされた両名は移植が大変難しいと言われていた桜の移植を、工事関係者の間組とともに移動距離600m、高低差50m上に移植を行い、見事に桜が蘇っり、それは春には今でも見事な花を咲かせます。

 世界遺産条約誕生のきっかけとなった、アスワンハイダム(エジプト)の建造におけるアブシンベル神殿の移築にも通じる話であり、参加した一同は実物の桜の木を目の前に、深い感銘を受けました。

《御母衣ダム・地下発電所》

 「烏山頭ダム」と同様のロックフィルダムである電源開発㈱所有の「御母衣ダム」と「地下発電所」見学では、御母衣事業所内から地下発電所へ「インクライン」というケーブルカーで地下83mまで下り、普段見ることのできない地下発電所を見学できた貴重な経験でした。

《白川村観光振興課・教育委員会との交流会》

 白川村では、事前に調整により、役場の会議室にて、観光振興課と教育委員会の方々と意見交換の時間を設けました。当会アドバイザーの飯島より「台湾世界遺産登録応援会」の取組みの概要説明の後、白川村から白川郷が世界遺産になったこれまでの経緯、住民の方々が村を誇りに感じられていること、合掌造りの集落保存と観光活用に苦労されている点などを質問形式で伺い、一同大変勉強になりました。また今後、台湾を訪れた際に世界遺産登録に向けて活動されている台湾の団体へのアドバイスの参考にもなりました。

 その後、合掌造りに使用される「萱」の倉庫を特別見学し、萩町の合掌造り集落の案内とともに散策。火災から守る「放水銃」の実物も見せていただけました。地域の宝である合掌造りや自然環境を含めた景観を如何に保存していくか、その努力と観光における課題や対策も説明を受けました。

改めて、白川村役場観光振興課と教育委員会の皆様には、感謝申し上げたい。

《高山祭屋台会館・街並み散策》

 高山市では、これも事前に調整し、ユネスコ無形文化遺産である「高山祭の屋台行事」などを学ぶため、高山市観光課と高山市史編纂に長年尽力された田中学芸員の案内いただきました。

 「高山祭屋台会館」を皮切りに、古い町並みの解説を受けながら、中国の世界遺産で同じく歴史的町並みである「麗江の旧市街」と姉妹都市であること、町並み保存には祭屋台保存会や「屋台組」という組織が重要であること等を学びながら、ゆっくりと最終地点の高山陣屋まで歩きました。